11/21 W杯開幕

球技が苦手だ。中でもサッカーはからきしだ。Jリーグ発足に列島が沸くのをよそに、高校のクラス対抗サッカー大会は憂鬱で仕方なかった。サッカー部のイケメンが放課後に下手っぴを集めて特訓をするのだが、焼け石に水。本番ではボールにさわれもしなかった。

ボールひとつで争う球技は、紀元前からあったと言われる。日本でも大和朝廷時代に中国から伝わった蹴鞠が、貴族らの間で楽しまれた。枕草子の遊戯についての段には「さまあしけれど、鞠もをかし」とある。格好は悪いけど、蹴鞠もおもしろい。平安の昔にも、上手な同僚に無理やり練習させられたのがいただろうか。

だから、芸術のごとく放たれるパスやシュートにはただ見ほれてしまう。サッカーの頂点の祭典が、カタールで開幕の日を迎えた。「スポーツには、嘘としか思えない驚きの瞬間が訪れる」。人はそれを求めてスポーツを見るのだと、元東大学長の蓮實重彦さんは書いている(「スポーツ批評宣言 あるいは運動の擁護」)。

日本がW杯に初出場した1998年フランス大会から、間もなく四半世紀になる。日本社会は浮き沈みしつつ低空飛行を続けているが、選手たちは海外をはじめ着実に活躍の場を広げてきた。ニッポンを背負っているのだと、必要以上に力むこともあるまい。のびのびと美しいプレーで、幸せな寝不足を味わわせてほしい。