12/21 のびのびとした教育現場

「就職して一番おどろいたのは、学校が予想以上にいそがしい職場だったことである」。作家の藤沢周平さんが自伝「半生の記」に、新卒教員時代の思い出を書き残している。戦後まもなく、山形県師範学校を出た青年は赴任した中学校でいきなり担任を持たされた。

新しい教育方法をめぐる刺激的な討論。授業でのすみやかな実践。学校は熱を帯びていたようだ。藤沢さんは戸惑いを覚えながらも生徒への愛情を深め、結核療養で休職を余儀なくされるまでの2年間を駆け抜ける。そんな戦後教育の黎明期から70年を経て、いまも学校はやはり忙しい。もっとも、その中身はどうだろう。

煩雑な事務作業や保護者対応、部活の指導など、先生たちには授業以外の大きな負担がのしかかる。早朝出勤と深夜勤務の連続も珍しくない。学生たちの教職離れは深刻だ。腰を据えた改革が必要なはずだが、こんど中央教育審議会が打ち出した対策の柱は採用の早期化である。それもいいが、ポイントはそこなのか。

いかに青田買いに精を出しても、のびのびと授業に取り組める環境でなければ人材は集まるまい。「教育という言葉には理想を託しても悔いないと思わせるものがあり、私たちは教育界に骨を埋めるつもりでいた」と藤沢さんは述懐している。戦後改革期の自由な空気は、この人のような異能を学校という場に引き寄せた。