4/23 ロボットにない弱さ

見た目は大きな木綿豆腐だ。そっと押すと確かにあの手触り。台の上に鎮座した白い物体が小刻みに震え、何やらうなっている。例えるなら長年、家族同様に暮らしてきた犬が、人間の言葉を話しているつもりで懸命に訴えかけてくる。そんな時の声といったらいいか。

豊橋技術科学大学・岡田美智男教授の研究室で見たロボット「トウフ」である。岡田さんはこれまでいくつも「弱いロボット」を作ってきた。ゴミを発見しても拾えないゴミ箱型ロボット。昔話を語ろうとして肝心な部分をど忘れする語り部ロボット。「できること」を評価の基準にするならトウフの弱さは際立っている。

言語をもたず、代わりに言いたいことを表現する目や口といった顔のパーツも、手足もない。通常、ロボットには機能を加えていくものだが、逆に一つ一つ引いていく「引き算」の発想から生まれた。最初は意味のわからないうわごとを聞いているようで戸惑ったが、しばらく向き合っているうちにこちらの心境に変化が生じた。

「ウワウ、ウウ…」に「聞いて、聞いて」といういちずな願いを感じて、自分がとても必要とされている気がしてきた。と同時に、トウフに表情が浮かんだような不思議な感覚を覚えた。「人間らしさ」とは弱さのことだ。言語を自在に操る人工知能(AI)が発達しても、きっと人とは何かの答えにはたどり着けない。