5/9 朝鮮通信使と日韓関係

鯛(たい)の姿焼きにアワビ醤油(しょうゆ)煮、キジの焼き物も。江戸時代、12回にわたり来日した朝鮮通信使を道中でもてなしたごちそうの一例だ。対馬から瀬戸内をへて江戸に向かうこの外交使節団を、人々は各地で歓待した。異文化に触れたいと、宿場で面会を求める人も大勢いた。

通信使側も長い旅路の見聞を本国に伝えた。「刀傷が顔の表にあれば勇敢、耳の後ろなら臆病とされる」。1719年の第9回通信使で編まれた「海游録(かいゆうろく)」は、当時の日本社会の風俗をつぶさに紹介している。秀吉の朝鮮出兵で傷んだ関係の修復を目的に始まった通信使は、江戸200年余を通じた善隣交流の礎を担った。

日韓首脳のシャトル外交が12年ぶりに復活した。訪韓した岸田首相に、尹錫悦大統領はプルコギや冷麺、韓国の清酒をふるまったそうだ。尹氏が3月に日本を訪れてまだ2カ月足らず。来週のG7広島サミットで再来日も予定され、その往来のテンポは確かに印象的だ。時機を逃さず、関係をさらに前へ進められたらいい。

朝鮮出兵をはじめとする過去の遺恨を巡り、通信使と日本側で論争も起きたと海游録は記している。それでもお互いを尊ぶ軸足までは崩さなかった。「礼は敬より生じ、慢より廃す」。議論が感情的に過熱しかけると、そんな自戒の言葉も出た。傲慢を排し敬意をもって接する。昔はできて、現代人にできないはずもない。