5/10 ナチス・ドイツの焚書

「1933年5月10日の出来事はどれ?」。在日ドイツ大使館はかつて、交流サイトで歴史に関する択一問題を発信した。正解は、ナチス・ドイツによる大規模な焚書である。この日、ベルリンの広場で、「非ドイツ的」な書物2万冊以上を燃やした、と解説している。

立ちのぼる炎と煙を群衆が見守る。「書物のホロコースト」の現場を撮影したセピア色の画像も投稿した。ユダヤ人のみならず、独裁者の思想に反する高名な作家や学者の書籍も葬ったのだ。「古きものは燃えつき、新しきものが、我々の心の炎から生まれるだろう」。ナチス政権の宣伝担当大臣は登壇し熱弁をふるった。

ドイツ大使館が自国の負の歴史を語るのは、過去に対する省察なのであろう。あれからちょうど90年である。世界は変わったのか。ロシアはウクライナ侵攻で、歴史的建造物など文化財を破壊。本紙報道によると、支配地域の公共図書館などからウクライナの歴史や文学に関する書籍を大量に押収、焼却しているという。

先の大戦と本の関係を掘り下げた米国のノンフィクション「戦地の図書館」(東京創元社)は、ナチス焚書に抗議したヘレン・ケラーの言葉を伝える。「これまで、暴君たちが幾度となく思想を弾圧しましたが、思想は力を盛り返し、暴君らを破滅に追い込みました」。真理であろう。独裁者がどんな宣伝をしようとも。