5/21 AIに真似できない感動

8年ほど前、都内の著名なシナリオ教室に通ったことがある。いつか心温まるテレビドラマを描いてみたい。そんな憧れからだった。半年間かけてドラマの骨組みとなるプロットの立て方を学んだ。舞台設定や、登場人物のキャラクターと相関図、物語の流れを決める。

最初に教わったのがストーリーの構成に欠かせない「序破急」の考え方だ。物語が始まる現在地を説明する「序」。次の「破」で主人公は困難に直面し、観客をハラハラさせる。そして「急」で幕を閉じる。展開はしっかりと練る、脇役でもその後の消息を描き込む、伏線を張るなどたくさんのルールがあることを知った。

これらはハリウッド映画の鉄則なのだとか。講師が挙げた手本はスピルバーグ監督の「ジョーズ」だった。その映画の都で今月、脚本家たちが15年ぶりに、大規模なストライキを決行した。本紙報道によると、賃上げなどの待遇改善と共に、人工知能(AI)がシナリオを書く行為を脅かすとその排除を求めているという。

すでに脚本の編集や台詞(せりふ)の修正に使われ始めているそうだ。人間が一生かかってもできない数の名作を読み込み、瞬時にヒットのコツをつかむに違いない。それでも、と悪戦苦闘しながら書いたプロットを読み直して思った。演出の妙、生身の俳優たちが放つ魅力。言葉にできない感動の要素まで彼らは理解するだろうか。