6/15 図書館司書の物語

スポーツ選手や芸能人らの「名鑑」はなじみがあるが、こちらはやや意表をつく1冊だ。昨年11月に出版された「司書名鑑」。図書館を裏方として支える31人へのインタビュー集である。図書館との出会い、本を介した人との交流が個人の物語としてつづられる。

岩手県紫波町図書館の手塚美希さんは、本屋も鉄道もない秋田県の過疎の村で育った。あらゆる情報があって老若男女が集える。そんな図書館をつくろうと司書を目指した。紫波町の図書館は地元出身の植物採集者の企画展示、農業情報の提供、飲食ができる読書テラスなど型破りな取り組みで有名だ。

全国の公立図書館は3300館を超す。いまや本の貸し借りにとどまらない。近年は地域の記憶を記録、町の「集会所」の役割も果たす。市民の3.11の体験をアーカイブする仙台市せんだいメディアテーク。ホワイトボードと付箋で地域の情報交換を促す島根県西ノ島町の図書館は、コロナ下も可能なかぎり開館した。

志あるスタッフなしにできる活動ではない。ところが公立図書館職員の76%は非正規の雇用という。日本図書館協会が今月、処遇の改善を各自治体に要望したと発表した。日本では司書が単純労働の非専門職種と考えられがちなことも背景にあろう。彼らの人生の物語の続きが不安定な雇用や低い待遇であってはいけない。