6/22 インドネシアに残った日本兵

「独立は一民族のものならず 全人類のものなり」。東京都港区の古刹、青松寺にこんな石碑がひっそり立つ。碑文を寄せたのは、インドネシア建国の父、スカルノ元大統領である。同国の独立に尽力し、当地で倒れた二人の日本人の遺徳をしのんで鎮魂の辞を贈った。

碑の裏面に2人の略歴が刻まれていた。先の大戦で日本が敗れた後もインドネシアにとどまり、同国の独立軍に参加。参謀指揮官として旧宗主国オランダを相手に戦った。が、独立を見届けずに散ったのだ。スカルノは、彼らの死を悼み、顕彰碑が1958年に建立された。縁者が訪ねたのか。日本酒が供えられていた。

私たちが学ぶ教科書は、主に権力基盤の変遷を軸に歴史を語る。「45年8月、スカルノを中心に独立宣言を発表し、建国五原則にもとづき憲法を制定した。しかし、オランダはこれを武力で阻止しようとしたため戦争になったが、インドネシアは独立を達成した」。戦争に加わった残留日本兵に関する記述は見当たらない。

独立の理念に共鳴した。戦犯として裁かれるのを恐れた。当地の女性と恋をした…。残った理由はさまざまであろう。逃亡兵のそしりも受けた。が、彼らも懸命に生きたのだ。インドネシアを訪問中の天皇、皇后両陛下は、残留日本兵の遺族と対面し、墓所に供花された。教科書が語らない歴史の余白を学ぶ契機としたい。