6/21 優生保護法の異様さ

「常習犯罪者は強制断種すべきだ」「悪質な遺伝因子を残さない制度が必要だ」。戦後まもない国会で、優生保護法の制定を訴える議員らが訴えたのはそんな主張だった。焦土の中で人口が急増することへの懸念もあり、貧困層は妊娠させるべきでないとの声すら出た。

ナチスが障害者に断種法を適用したことはよく知られる。優生思想は戦前から我が国にも入ってきていた。とはいえ敗戦を経て、基本的人権をうたう新憲法が制定されたばかり。まるで逆行する論陣が張られたわけだ。1948年、優生保護法は成立する。全会一致だった。社会が非道な差別に無頓着だった事実に慄然とする。

同法による障害者らの強制不妊問題で、国会が初の調査報告書をまとめた。約2万5千人が手術を受け、6割超で本人の同意がなかった。最年少は9歳の男女。関係施設へのアンケートでは「児童期に実施された例が多い」との回答もあった。残された記録が十分でない点を考えれば、被害実態はさらに広く、深いはずだ。

「こんな法律が平成8年(96年)まであったことに驚いています」。若手の職員だろうか、福祉関係者の率直な感想も報告書にはある。そうなのだ。後からみれば異様でも、渦中では見過ごす。メディアも含め、常に省みなければならぬ。多数者が「要不要」で少数者を置き去りにする。前世紀の昔に済んだ話ではない。