2/7 在宅型ケアの裏側

命を救い、生を手助けする立場の医師が、患者の家族に銃で打たれ命を失う。まさかと思う事件が埼玉県の住宅街で起きてから10日ほどたつ。亡くなった医師は地域をまわる訪問診療に熱心だったという。44歳。人として、医師としてまだやりたいことも多かったろう。

訪問型、利用者から見れば在宅型のケアやサービスが近年増えた。その担い手の方々から、「例外的な出来事とは思えない」との声が聞かれる。診察、看護、介護、歯の手入れ。髪を整える美容も訪問型が伸び、若い人が「お年寄りの役に立ちたい」と志す。新型コロナ下でも、感染の危険を承知の上で家々を訪れる。

多くは感謝されているだろう。しかし残念ながら、すべてではない。全国訪問看護事業協会の2018年調査によれば、訪問看護師の45%が身体的暴力を受けたことがある。精神的暴力は52%、セクハラは48%が経験した。他人の目が届かない家で、「患者や家族も大変だから」と我慢する。その延長線上に事件は起きた。

契機は容疑者の母の死だった。身近な人の死は誰もつらい。悲嘆を乗り越えるグリーフケアのためにカウンセラーを置く病院もある。「慰め合う家族がなく、残される側も独りという例が増えた」。ある担当者の言葉だ。人を傷つけぬよう、いらだちや悲しみをのみ込むすべをどう身につけるか。人ごとではない問いが残る。