9/20

太平洋戦争の火ぶたを切ったのは、真珠湾攻撃ではなかった。その約1時間前に、英領マレー半島への上陸を試みる日本軍と英国軍の戦闘が始まっている。新鋭戦艦プリンス・オブ・ウェールズはマレー沖で日本の攻撃機に沈められ、チャーチル首相に強い衝撃を与えた。

英国の対日戦の記憶は、反日感情としてたびたび蘇った。終戦から半世紀以上たった1998年、天皇だった上皇さまが訪英された際も、元戦争捕虜らが罵声を上げ、日の丸を焼いた。「深い心の痛みを覚えます」「二度とこのような歴史の刻まれぬことを」。晩餐会での上皇さまの言葉だ。批判を受け止める態度だった。

日本の皇室も英王室も、政治的機能は持たない。ただ息の長いその交流が、結果として両国関係に影響を与えてきたのも事実だ。国家間の友好親善といっても、「結局は、生身の人間同士がどれだけ互いに親しみを持てるかということに還元される」。元外務事務次官侍従長を務めた川島裕氏はつづっている(「随行記」)。

天皇陛下は皇后さまと訪英し、エリザベス女王に別れを告げられた。新型コロナ禍は陛下の即位後の外国訪問を阻んできたが、昭和からの女王の親交はその壁を越えた。3年前の即位礼ではチャールズ新国王が訪日している。バトンは次世代にわたっていく。戦禍の過去も包みこんできた友情は、まだまだ深まるはずだ。