11/17 人口という怪物

1941年1月。アジアでも戦雲はいよいよ急を告げていた。そんな時期に政府が閣議決定したのが「人口政策確立要綱」である。「東亜共栄圏」の建設と発展のためには「わが国人口の急激にしてかつ永続的なる発展増殖」が必須と説き、産めよ殖やせよを督励した。

当時の日本「内地」の人口は7200万人ほどである。これを19年後に1億人に増やすのが「要綱」の掲げる目標だった。人口、人口、人口…。とにかく人口が多くなければ覇権を遂げられず、野心もついえるという焦慮がそこにはにじむ。たしかに20世紀の世界は人口がものをいい、戦後の繁栄も人口増に支えられた。

そうした時代がゆっくり終わろうとしているらしい。国連によれば世界人口はおととい、80億人に到達した。12年間で10億人も増えたが、2086年に104億人でピークを迎えるそうだ。60年代に2%以上あった増加率は、現在は1%を割り込んだ。少子化と人口減に悩む日本の後を、中国含め世界の多くの国が追う。

統制色の強い「要綱」には、結婚年齢を早めて平均5人の出産を促すなどという対策が並んでいた。しかし大きな効果はなく、むしろ戦後のベビーブームを起点に、かつての目標を軽々と超えたのは皮肉な展開だ。かくも制御の難しい人口という怪物に、21世紀の人類はどう立ち向かうのか。80億人時代の苦悩はまた深い。