11/18 月への旅

197x年、アポロ宇宙船が月に向けられて打ち上げられた。雲のようなものを噴き出す謎の火口を調べるのが目的だ。ところが乗組員の1人が探査中に事故に遭い、月に取り残される。というのは架空の話。手塚治虫さんが約半世紀前に描いた「クレーターの男」だ。

物語で主人公は未知のガスを浴び、永遠の命を手に入れる。長い歳月の後、月の鉱石の調査に来たスタッフたちは彼にこう告げる。「地球はいま世界がまっぷたつにわかれてにくみ合ってる最中なんだ」。米ソの対立が世界に影響しただろうか。そして核の脅威が改めて高まるなか、人類は再び月への旅に挑み始めた。

米国が主導し、日本も参加する「アルテミス計画」がついに始動した。度重なる延期で多くの人をやきもきさせたが、大型ロケットが米フロリダ州で打ち上げられ、宇宙船オリオンが月へと向かった。今回は無人飛行だが、2025年以降は有人飛行による月面着陸を予定している。月探査の新時代の幕開けに期待がふくらむ。

約半世紀ぶりに月面に降り立つ人は、どんな思いで地球をながめることになるのだろう。月に残ったクレーターの男は、遠い地球が無数の光でチカチカ輝くのを目にし、自分のふるさとで何が起きたのかを悟る。数々の傑作を生み出した漫画界の巨匠は、人類の破滅も予言してみせた。そんな世界にしてはならない。