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・寅さんが語った大学に行く意味

日本学術会議の改革

 

「おじさん、大学へ行くのは何のためだ」。受験勉強中の満男が、ふと寅さんに尋ねる。その答えがいい。「長い間生きてりゃあ、いろんなことにぶつかるだろ。そんなとき、勉強したやつは自分の頭できちーんと筋道を立てて、どうしたらいいか考えることができる」。

男はつらいよ」シリーズ第40作「寅次郎サラダ記念日」に、こんな名言があった。よい会社に入るためとか、すぐに役立つ技能を得るためとか、寅さんは決して言わないのである。学問というものの意味を説いて、すとんと胸に落ちる言葉ではないか。一人ひとりが地道に築いた知が積み重なり、社会も強くなる。

学者たちのそういう思考に、いらだつ人も多いようだ。日本学術会議の組織改革をめぐり、政府は会員選考に第三者機関を関与させる方針を示した。現役会員が新会員を推す仕組みが崩れ、会議の性格が大きく変わる可能性がある。タコツボからの脱却は結構だが、政権の意向に忠実な提言があまた作られるかもしれない。

この年の瀬に、政府が矢継ぎ早に打ち出した「大転換」はなお議論と説明がいる。学術会議改革もゴリ押しでは進むまい。そもそも問題の発端は、政府が新規会員候補6人の任命を拒否したことにある。こちらの事態収拾はどうなったのだろう。「きちーんと筋道を立てて、どうしたらいいか考える」知恵者はいないのか。