2/4

水木しげるさんの著作を読むと、わが国にはかくもいろいろな妖怪が住んでいるものだと感心する。疫病を封じるアマビエのようなありがたい存在は少数派。船を遭難させたり、魂を抜き取ったりする凶悪犯がいれば、命は奪わぬまでもいたずら好きな輩も少なくない。

知らぬ間に人間の髪を切ってしまう「髪切り」。「天井なめ」はその名の通り、長い舌を使って天井に汚いシミをつける。どことなくユーモラスな趣があるが、やられた方にしてみれば迷惑千万である。文明が進み妖怪たちは姿を消したようだが、それとは別のえたいの知れない何かが日本のあちこちに出没している。

回転すし店で共有のしょうゆ差しに口をつける。レーンを流れる皿にわさびを載せる。SNSに投稿された動画が物議を醸している。1人や2人ではない。運営会社の株価は下がり、警察に被害届を出した。となればとうにいたずらの域を超えている。何より食に対する不信感を広げた影響は無視できない。

不適切投稿はずっと前から問題視されているのに、次々火の手が上がるのはまか不思議である。モラルの低下や想像力の欠如を生む病根はどこにあるのだろう。妖怪学を提唱した哲学者の井上円了は「(研究により)社会の内幕や人情の秘密が分かるようになる」と説いた。現代を跋扈(ばっこ)するもののけの正体を探り、退治する知恵がいる。