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・フランスの少子化対策がしばしば取り沙汰される。「N分N乗」方式なる税制を検討すべしとの声が与野党で出ている。

・子どもが多いほど所得税が軽くなる税制だ。だが、片働き世帯が有利だったり高所得層に恩恵が偏る点は見過ごせない。

・フランスの少子化対策は多彩なメニューを揃えており、そうした全体像をしっかり研究すべきだ。

 

明治初年に欧米を見て回った「岩倉使節団」の一行は、行く先々でその文化・文明に驚嘆した。とりわけパリでは街路の美しさや市民の華やいだ雰囲気に圧倒され、随員の久米邦武編「欧米回覧実記」にいわく「ロンドンは人を勉強させるが、パリは人を愉悦させる」。

日本人のフランス憧憬は、このあたりがルーツなのだろう。昭和戦前期にかけて、かの地にあこがれた作家や画家は実に多い。それも今は昔。ではあるが、近年は少子化対策でフランスがしばしば取り沙汰される。「N分N乗」方式なる、数式みたいな税制もそのひとつだ。与野党から検討すべしとの声が出ている。

世帯の所得を合算し、家族構成に応じた係数Nで割って一人あたりの税額を求め、それを再びN倍して世帯の税額を得る。こうすると子どもが多いほど所得税が軽くなる。フランスでは戦後ずっと採用してきた。などと聞けば魅力的だが、片働き世帯が有利になり、高所得層に恩恵が偏るという弊害も見過ごせない。

フランスの少子化対策は多彩なメニューを揃えている。非婚カップルが子どもを持つのもごく普通だという。「N分N乗」をうんぬんするなら、明治の使節団よろしく、そうした全体像もしっかり研究したほうがいい。旧来の価値観に縛られて身動きのままならぬこの国にとって、フランスはあまりに遠し、だろうか。