3/26 チェコの初代大統領

国の優れたリーダーで文化人でもあった20世紀の為政者というと、英首相でノーベル文学賞もとったチャーチルが有名だろう。知名度はやや下がるものの、東欧チェコスロバキアにも哲学者マサリクが、そしてもう一人、無血のビロード革命を率いた劇作家がいた。

名前はハベル。とりわけ今日、その思想を振り返りたくなる。自由を目指した「プラハの春」がソ連の戦車につぶされたのを機に、反体制運動に身を投じる。作品は発禁処分となり何年も投獄されるが、1989年にベルリンの壁が崩壊すると大統領に就任する。スロバキアと分離後のチェコの初代大統領になった。

名著「力なき者たちの力」は東西冷戦下で執筆され、抵抗の書として世界中で読み継がれてきた。本の題名のとおり、力ある者から「無力だ」と思い込まされた人たちの力を彼は信じていた。86年にオランダの財団から賞を受けたときの演説の原稿に、こう記されている。「できやしない、というのは真実ではありません」。

「自分がいかに無意味で無力であったとしても、世界を変えることができるのだと理解する可能性を誰もが秘めているのです」。絶望下、演劇家らしい言葉で自らと人々を励ました。21世紀にも国は違えど自国の民を救おうと、必死に言葉を発する若き大統領がいる。ラフなTシャツ姿で胸を張って。