2/26 ロシア大統領の2枚舌

ロシア民話には似たような話がいくつかある。愚直な青年が周囲にばかにされつつも、最後はお姫様と結婚したり財宝を手に入れたりする。こんな筋立てが広く伝承されるのは正直を旨とする国民性ゆえかと思ったが、指導者にはそんな気質はまったくないようである。

「侵攻するつもりは全くない」。大統領がこう語った数日後、戦車やミサイルが国境を越えた。舌の根も乾かぬうちにというべきか、以前から2枚の舌を持っていたのか。この言葉に平和への希望を見いだそうとした人もいたはずだ。しょせん国際政治はばかし合い、などと簡単に見逃すことのできない大国の振る舞いである。

丸1日が過ぎ、報じられる死者数が増えている。「人びとを愛してほしい。不幸なウクライナのために 神に祈りを捧げてほしい」(藤井悦子訳)。19世紀、反ロシアを理由に弾圧されたウクライナの国民的詩人シェフチェンコの一節を引いた。爆発音の隣で祈るしかすべがない市民の姿を想像すると、胸がキリキリ痛い。

ロシアには「無理強いでは愛は得られない」とのことわざがあるという。昔話であれば、横暴な王様はいずれ手痛いしっぺ返しを受ける。首都を手中に収め都合のいい政権を樹立させたところで、世界中からそっぽを向かれウクライナ国民の憎悪が増すだけなのに。先人の教訓を彼に分からせるにはどうすればいいだろう。