12/13 ヤングケアラーの未来

壺井栄さんの小説「二十四の瞳」は瀬戸内の島が舞台になる。昭和の初め、岬の分教場に赴任した主人公の大石先生は小学1年生12人の担任となった。子供らは4年生まで地元の分教場で過ごし、5年生から片道5キロを歩いて本村の学校まで通うことになっていた。

初担任の1年生が5年生になる春。本村に転勤していた先生は懐かしい顔ぶれを迎えるが、うち1人は初日しか登校しなかった。母親が急死し、炊事や洗濯、弟や妹の世話を一手に担ったからだ。「法律はこの幼い子どもを学校にかよわせることを義務づけてはいるが、そのために子どもを守る制度はない」と先生は知る。

子供が家の仕事に縛られ、不本意な形で学業から遠ざけられるのは全く過去の話か。大人に代わり日常的に家族のケア(介護や世話)をする子供を「ヤングケアラー」と呼ぶ。国や自治体の調査によりようやく実態が見えてきた。横浜市では小学5年生の20.3%が、世話をしている家族が「いる」と答えたそうだ。

国などの調査によれば、学費や通学の問題から大学選びにも影響を与えているという。「同じ土地に育ち、同じ学校に入学した同い年の子どもが、こんなにせまい輪の中でさえ、もうその境遇は格段の差がある」。大石先生の悩みから90年。子供や若者の可能性の芽を、どうしたら摘まずに済むか。適切な支援が望まれる。