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・渋谷駅の大工事

・渋谷ダンジョンのこの先

紀行作家の宮脇俊三さんは幼少期を渋谷駅のそばで暮らした。はじめは地面を走り踏切もあった山手線が、高架化され立体交差になってゆく。「大工事だよね、線路を持ち上げるのは」。変わり続ける駅への愛着を、旧友との座談で語っていた(「昭和八年澁谷驛」)。

2銭の切符で山手線に乗るのが小1で最大の楽しみだったという宮脇さんは、今年が没後20年だ。ご存命だったら、この週末の渋谷駅の工事をどう眺めただろう。山手線のレールを人力でぐいぐいずらし、2つあったホームを1つにまとめる。外回りの半周近くが丸2日止まり、影響人員53万人というからまさに大工事だ。

現場をガード下から眺めた。大勢の作業員とジャッキをまぶしくライトが照らしていた。それにしても渋谷駅はいつも普請中の印象がある。建築家の磯崎新さんは「これだけダイナミックに空間が変動している地域は世界でも類がない」とエッセーに書いた。駅が人をのんで吐き出す様子も生物の呼吸のようだ。

周辺はいまも大規模な再開発の真っ最中。山手線もさらに線路を持ち上げる計画があるそうで、完成はまだまだ先という。宮脇さんは渋谷駅のゴチャゴチャぶりをやゆされると面白くなかった。「雑然の便利さと住みやすさ」が自分の東京観だ、ともつづった。渋谷ダンジョンはこの先、どんな表情になっていくのだろう。