6/26 育児はワンオペに向いていない

「人間の育児はワンオペに向いていない」。生物学者で学生時代に起業した高橋祥子氏の言葉だ。今春、愛読書のインタビューの折に聞いた。高橋氏は「こども未来戦略会議」のメンバーで、取材の数時間後には官邸での会議に赤ちゃんを連れて出席、話題にもなった。

自身、出産して驚いたのは赤ん坊の「弱さ」だったという。食料を探して食べることも危険から逃れることもできない。「こんなに弱いほ乳類はほぼいない。よく人類が増えたなというのが生物学者としての最初の感想」と語っていた。少子化どころではない。よほど頑張って育てなければ、すぐに絶滅する生き物なのだ。

にもかかわらず人口を増やせたのは、集団で育児をしてきたからだと高橋氏はみる。脆弱さが、かえって進化上のメリットになった。弱い状態で産み、ゆっくり育てる環境を整えた結果、ヒトは脳の発達に15年もかけられるようになり、知性を発達させることができた。つまり、人間の育児は集団生活が大前提になっている。

この生物学的な育児の仕組みと育児家庭の大半が核家族という現代の環境とのギャップが少子化の原因ではないか。ならば育児の負担を社会全体で担うのは必然となる。科学から導かれた「育児はワンオペに向いていない」という真理。育児に悩む人も政策決定者も唱えれば、眼前の霧が晴れる魔法の言葉にみえる。