2/28 テトリスBGM

「コロブチカ」の題名をご記憶の方は、どのくらいいるだろう。どこかもの悲しい旋律のロシア民謡である。かつて小中学校の運動会ではフォークダンスの定番曲だった。男女が二重の輪で向き合い、足でリズムを取ったり手拍子を打ったりし、パートナーを替えていく。

旧ソ連発祥のテレビゲーム「テトリス」のBGMといえば、思い出す向きもいようか。もとはウクライナ出身で、19世紀の詩人、ネクラーソフの作品「行商人」の一部に曲がついたものだ。品物で重い荷を背負った男が、夜の麦畑にやって来て、目当ての女の客を待つ。値段の交渉が始まった。こんな内容という。

しかし、芸術家を育んだ国土は今、あちこちで硝煙と爆音が絶えない凄惨な場と化してしまった。侵攻したロシア軍は首都キエフに迫り、ウクライナ軍が決死の防戦をする。米欧はロシアを国際的な資金決済網から排除する厳しい制裁で合意した。それでも停戦の協議が始まるのかは不透明で、人々の国外脱出も続く。

希望の光は、当のロシアを含めプーチン大統領の蛮行に対する非難が各地から湧きあがっていることだ。非道なトップを追い詰める力になると信じたい。さて「行商人」はこう続く。「2人がどう折り合ったかは深い夜が知っている。背の高い麦よ、秘密を守れ」。詩のような、大らかな愛が再び地に満ちるのはいつの日か。