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仏教でヤナギは、その薬効から霊木とされる。奈良市の古刹、大安寺には、かつて枝を手にしていたらしい楊柳観音が伝わる。京都の三十三間堂でも、祈願した浄水を参拝者に注ぐ「楊枝のお加持」が古くから行われ、頭痛封じにご利益があるそうだ。

19世紀に入ると、欧州の学者らが葉の有効成分の分離や生成にこぎつけ、著名な解熱鎮痛剤「アスピリン」が生まれた。こんな故事にすがったわけではあるまい。新型コロナウイルスの感染を疑われる発熱者が爆発的に増えている北朝鮮で、国営メディアが「ヤナギの葉を煎じて飲む」といった民間療法を紹介したという。

医療が整わず、消毒液や検査キット、マスクといった基本的な衛生用品も決定的に不足している現状をしのばせる。金正恩総書記は「危機を認識していない」と内閣や保健当局を叱責。薬局への視察でも種々の指導をしたと報じられる。自らの国づくりの矛盾が、今回の事態であらわになったという反省はないのだろうか。

国際的枠組みからのワクチン提供も拒絶し、干ばつで食料不足の懸念もあると聞く。中国流の都市封鎖で、人々の命は守れるのか。「建国以来の大動乱」との危機感があるのなら、自身が取りつかれている核やミサイル開発への高熱を冷まし、現実を直視すべきだろう。この熱にヤナギは効かない。自らの決断のみだ。