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「鉄の暴風」と形容される沖縄戦で降り注いだのは鉄砲弾だけではない。日米双方が相手の戦意をくじこうと宣伝ビラをばらまいた。圧倒的なのは米軍で、火薬に代えて数百枚を詰めた砲弾を撃ち込んだ。太平洋戦域で初の本格的な心理作戦だったと、沖縄県史にある。

その照準は兵士に限らず、住民にも向けられた。彼我の戦力差を強調して戦場周辺からの避難を促し、日本軍への協力を拒むよう訴える。なかにこんな文言がある。「アメリカは内地人と戦っているのです。戦いをしたくない沖縄のみなさんを苦しめたくはありません」「あなたたちは内地人の手先に使われているのです」。

侵攻に先立って米軍は沖縄に関する情報を集め、徹底的に研究した。目をつけたのが本土に対する県民の複雑な感情である。日本への帰属意識を弱め、心理的な亀裂を広げることを狙った。非戦闘員の被害を抑える意図もあっただろうが、戦闘終結後の円滑な占領政策、さらには沖縄の独立をにらんでいたとの分析もある。

あれから77年。遠い欧州に目を凝らすと、自らを正当化し、他国や国際社会を分断させるためのプロパガンダが飛び交っている。生命や財産を奪うのみならず、お互いの不信をあおり、きずなを断ち切ろうとするのもまた、戦争の本質なのであろう。きょうの「沖縄慰霊の日」を前に、その罪深さをあらためてかみしめる。