2/22 複雑怪奇

昭和史の名言、いや迷言に「欧州の天地は複雑怪奇なる新情勢を生じた」という文句がある。1939年8月、突如として独ソ不可侵条約が結ばれたとき、退陣に追い込まれた平沼騏一郎首相が発表した談話のなかの言葉だ。「複雑怪奇」は流行語にもなった。

当時の日本は、ノモンハンでのソ連との戦闘に手を焼いていた。頼みの綱はドイツだったのに、それがいきなり敵と握手したのだ。平沼首相は大いに狼狽し、不明を恥じて職を辞したのである。これまで準備してきた政策は打ち切らざるを得ぬ、天皇陛下に申し訳ない、などと続く。ほとんど茫然自失の体である。

歴史の教訓を踏まえれば、いま進行中の事態も予断は禁物だ。「ロシアのプーチン大統領ウクライナ侵攻を決断した」。バイデン大統領はこう言い募るが、当のプーチン氏は平然といなしてみせる。しかしベラルーシでの演習は継続というからやはりと思いきや、一転して米ロ首脳会談に向けての動きも出てきた。

すさまじいまでの情報戦は、すでに戦争の一部と言ってもいい。横暴なロシアが自由を求めるウクライナに襲いかかる、という構図は世界の耳目を引くが、欧州の天地はそれこそ大昔から複雑怪奇。頭を冷やし、この複雑さを見極めねばなるまい。かつての日本の失敗も、たくさんの見誤りを重ねた末のことだったろう。