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中国元朝時代の官僚・儒学者、張養浩がこんなことを言っている。恨みも誹謗も受け止め、なすべきことを果たすのが宰相の責務である、と。いまにも通じる政治家の心構えだろう。安倍晋三元首相もしばしば、「国民のために批判を恐れず行動する」と口にしていた。

さりとて銃弾で命を奪う凶行を許していいはずがない。本当に現代の日本で起きたことか、信じがたい。2007年に長崎市長暴力団組員に拳銃で撃たれ亡くなった際、首相だった安倍氏は「民主主義に対する挑戦であり、断じて許すわけにはいかない」と語った。同じ言葉をいま、胸の中でかみしめ、つぶやいている。

逮捕された41歳の男は元海上自衛隊員だという。元首相を狙った動機は何か。どうやって銃を手に入れたのか。警護態勢にすき間はなかったか。脳裏に浮かぶいくつもの疑問への答えは、これからの捜査や検証を待つしかない。ただ得体の知れない空気感が身体中にまとわりつくような、不快な思いが拭えない。

明日には参院選の投票日を迎える。事件を受け、候補者や政党幹部が街頭演説をやめる動きもある。世界の人々は「安全な国」とされてきた日本をどう見るだろう。私たちがなすべきことは何か。理不尽に屈したりおびえたりすることなく、自由で安全な社会を守る。民主主義の担い手に課せられた責務ではないか。