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1976年に公開された映画「タクシードライバー」は名作の誉れ高い。ベトナム戦争に従軍した元海兵隊員は帰国後、疎外感を募らせる。殺傷力の高い銃で武装し、遊説中の米大統領候補の殺害を企てた。だが、不審な行動に気づいた警察官に阻まれ、未遂に終わる。

次に、少女を更生させるという目的のため、売春組織を相手に銃撃戦を展開する。もし、大統領候補を暗殺していたら、民主主義の敵として指弾されていたはずだ。でも、皮肉なことに少女を裏社会から救った英雄として、メディアから称賛される。ロバート・デ・ニーロが、不眠症に悩む孤独な男の狂気を見事に演じ切った。

映画で、男は日々の鬱屈をノートに書きとめる。この印象的なショットは、ドストエフスキーの「地下室の手記」を想起させる。小説の主人公は、40歳の元公務員だ。社会に背を向け毒を帯びた言葉を独白する。「俺が望んでいることは、別のことだからだ。何だと思う?お前たちなんか、皆、破滅しちまえばいい」。

40代の元自衛隊員の男は、どんな心の闇を抱えていたのか。安倍晋三元首相の命を奪った凶行の衝撃がさめやらぬなか、参院選の投票日を迎えた。私たちに今、できることは何か。元首相の無念に思いを致し、悼むこと。そして投票所に足を運ぶことだろうか。1票が民主制の強度を強める1本の柱になることを信じて。

 

ドストエフスキーの「地下室の手記」に出てくる主人公の男は、社会に背を向け毒を帯びた言葉を独白する。安倍晋三元首相の命を奪った40代の元海上自衛隊員の男は、どんな心の闇を抱えていたのか。凶行への衝撃がさめやらぬなか、参院選の投票日を迎えた。私たちに今できることは、元首相の無念に思いを致し、悼むこと。そして投票所に足を運ぶことだろうか。1票が民主制の強度を支える1本の柱になることを信じて。