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「三十年以上、旅とともに暮らしてきた」。そう語る作家、角田光代さんが2度訪れた島国がスリランカだ。22年前と6年前。16年間で街並みは変わったが、「何よりも驚いたのが、人の親切さがまったく変わらないこと」だとエッセー集「大好きな町に用がある」に記す。

バス探しを手伝い、座りこめば声をかけられる。「こちらが戸惑うくらい優しくて面倒見がいい」。そんな人々の親切に助けられ旅を続けたという。インド洋での東西交流の要所で、夏目漱石北杜夫は船旅の途上、この島に立ち寄りカレーを食べた。皇太子時代の昭和天皇巡洋艦で訪欧の途次、5日間滞在している。

そのスリランカが混乱の中にある。大統領が辞任する意向を表明し、抗議デモの参加者の一部が公邸を占拠した。専用プールや豪華な寝室ではしゃぐ人々の姿は、落日の独裁国家でしばしば見た光景を思い出させる。コロナ禍による観光の低迷、食料価格の高騰、停電、国のトップによる血縁者の重用が原因とされる。

1951年のサンフランシスコ講和会議。外務省によれば、スリランカ(当時セイロン)代表で後の大統領、ジャヤワルダナ氏は「憎悪は憎悪によって止まず、愛によって止む」と仏典の言葉を引用し、賠償請求権を放棄し日本を国際社会に受け入れるよう訴えた。優しい国が陥った混乱。そこで暮らす人々の不安を思う。

 

スリランカが混乱に陥っている。大統領が辞任を表明し、抗議デモで集まった人の一部が公邸を占拠した。専用プールや豪華な寝室ではしゃぐ人々の姿は、落日の独裁国家を想起させる。スリランカは優しい国といわれる。旅人のバス探しを手伝い、座りこんでいれば声をかける。こちらが戸惑うほど面倒見がよい。戦後のサンフランシスコ講和会議でも、日本に対する賠償請求権を放棄し国際社会に受け入れるよう訴えた。そんな優しい国が陥った混乱に人々は不安だろう。