10/19 解散命令のハードル

企業への死刑判決。そう呼ばれる規定が会社法にある。824条の解散命令だ。企業が犯罪行為を重ねるなど公益を害し「存立を許せない」場合に、裁判所が解散命令を出せる。申し立ては株主、顧客、法相もできる。ただこの条文、適用された例がほとんどない。

なぜか。会社を存続させ賠償させた方が被害救済が進みやすい。そんな実務面に加えて、専門家が指摘するのが、行政が消極的だった可能性だ。「許せない」の客観的判断は難しい。一時の営業停止で十分とみて、役所が及び腰になったとしても不思議はない。社会問題化した豊田商事事件でも発動は見送られた。

統一教会問題をめぐり、政府が「質問権」を初めて使うという。会社法同様、解散命令を定める宗教法人法に基づく措置だ。信教の自由への配慮なのか、あるいは別の理由があるのか、ここまで慎重な物言いが目立ってきた岸田文雄首相だが、ここにきて姿勢を転じた。オウム真理教など過去2例しかない解散命令請求が視野に入る。

大きな問題がある組織を、司法手続きで解散させる点では会社法も宗教法人法も同じだ。そのどちらも過去事例が少ないことは、ハードルの高さを示している。今回の質問権行使も前例がなく、調査は手探りになろう。解散に値するだけの実態はあったのか。予断は廃しつつ、及び腰でない解明が求められる。