10/28 ネットという怪物

井戸端会議という言葉はまだ通じるが、実際にその光景を目にすることはまずなくなった。かつてはご近所同士で井戸を囲み、コメをといだり服を洗ったりしながら、とりとめのない世間話を楽しんだ。「ここだけの話」という前置きの陰口がときにスパイスとなった。

インターネットが広まり始めた1990年代後半、専門家は課題も指摘していた。放送とは違い、倫理的なルールで縛りにくい点がその一つ。「井戸端会議・広場での会話に相当するような通信がなされる」(多賀谷一照・岡崎俊一著「マルチメディアと情報通信規制」)。ここだけのはずの話が拡散する世界が登場した。

ニュース配信サービス「ヤフーニュース」のコメント欄に投稿する人は、携帯電話番号を登録することが必須になる。中傷など不適切な投稿への対策だ。「なるほど」と感心する内容もある半面、目をそむけたくなる書き込みも数々あった。コメントで傷つく人のことを考えれば、対策を打つのは当然だろう。

社会と経済にネットが起こした革新の意義は言うまでもない。では人はそれを使いこなすすべを手にしたのか。立花隆さんは96年の著「インターネット探検」で「恐るべきスピードでとてつもなく巨大化しつつある情報の怪物」と表現した。自分もだれかを傷つける怪物の一部になり得る。そう自覚することが大切だろう。