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秋葉原殺傷事件の加藤智大死刑囚は犯行前年、職もなく上野の駐車場で車中泊していた時期がある。職務質問した警官は、励ましの言葉をかけた。管理人も「駐車料金は年末でいい」と背を押した。そんなやりとりで一度は気力を戻し、仕事も再開する。なのに…。

7人を殺害、10人に重軽傷を負わせた加藤死刑囚の死刑が執行された。「ネットでの嫌がらせをやめさせたかった」。法廷で動機をそう語る、縮こまった背中を思い出す。ネットトラブルのストレスと、居場所がないという孤独感。判決が指摘した事件の背景が、14年たった今もそのまま当てはまりうる現状に慄然とする。

拘置所の中から手記を出版し、謝罪の言葉もつづったものの、遺族や被害者、そして社会が抱いた「なぜ」というシンプルな問いへの答えは最後まで宙に浮いたままだった。過激さを増しつつ今も続く無差別襲撃事件を前にすると、苦悩から暴発への飛躍には、説明のつく理屈などないのかもしれないという気もしてくる。それでも、どこかで止められたのではとの思いまでは捨てられない。駐車場暮らしを脱してからの職場では、遊びに行く友人もできた。だが派遣切りの現実などに直面し「私は要らない人です」「みんなさようなら」と心の闇を深めていった。絶望が刃(やいば)になる前に受け止めていたら。そんな後悔を、もう繰り返したくない。