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「旅」は季語ではないが、相性がいいのはやはり秋だろう。「旅心高まりきたる秋扇」(村上三良)。乾いた風が頬をなでるこの時期は、通勤のターミナルからふらりとどこかへ遠出したくなる。そういえば、林芙美子の「放浪記」も「秋が来たんだ」の言葉で始まる。

そんなシーズンの真っ盛り。きのうから「全国旅行支援」なる政府の観光促進策がスタートした。新型コロナウイルス禍で疲弊した業界を助けようと、上限付きながら旅行代金を40%も割り引く大盤振る舞いだ。思えばコロナ禍もまだ序の口だったころ、やはり話題を集めた「GOTOトラベル」の復刻縮小版である。

うまく使えばなかなかお得とあって、あちこちで攻略法の紹介がにぎやかだ。「補助が最大になるのは平日の公共交通機関利用とセットになった旅行商品」「旅先でもらえるクーポンは土日、祝日だと1000円だけ」。などなど、情報が飛び交う。案の定、きのうは旅行予約サイトがつながりにくくなっていた。

予算が抑えられるのは誰しも大歓迎だ。とはいえ、この調子だと旅情よりも損得勘定が先立ちそうで戸惑ってしまう。こんな施策を打ち出さずとも、人々の旅心は十分に高まっていよう。業界には「GOTO」の本格的な再開を望む声があるそうだ。秋風に誘われるような漂白の思いは受け付けてもらえそうにない。