5/3 爆買いの先入観

「日本でいくら使う予定ですか」。空港に到着したばかりの旅行者に、テレビカメラのマイクが突きつけられる。口をついて出るのはおおむねなかなかの金額だ。頼もしく感じる一方、威勢良すぎではとの思いもふとよぎる。裏側の一端を明かす文章を読んだ。

観光ビジネス誌「週刊トラベルジャーナル」のコラムだ。訪日旅行を控えた中国の人たちが情報交換するSNS(交流サイト)がある。関心の高い話題が日本到着時に受ける取材だという。聞かれるのは買い物の予算。100万円と答えると喜ばれる。間違っても正直に10万円と言わなくていい。そんな発言が多いという。

「実際に100万円と答えたらすごく喜ばれた」との体験談も。要はリップサービスだ。執筆者は日中両国に拠点を構え、日本へのビジネス視察ツアーなどに長年携わる斉藤茂一さん。この種の質問を「気分が良くないと感じている旅行者も大勢いる」との指摘を受けたそうだ。「何とも失礼な質問」だと斉藤さんも思う。

新型コロナ禍前に比べ、中国人の訪日旅行への期待で歴史や伝統芸能、自然が大幅に増加したとの調査がある。中国人=爆買いとの先入観にとらわれていないか、気をつけたい。憧れの日本で感動にひたる間もなく、まず問われるのは使うお金――。中国以外の国でもそうした体験談が広まっていないかと少し心配になる。