4/9 東京の景観

「東京はすばらしい都市だ」「建築では、疑いもなく日本は最先端だ」。映像の詩人と呼ばれた映画監督、アンドレイ・タルコフスキーは訪日時の印象を日記に残した。「惑星ソラリス」(1972年)に、首都高速道路の映像を挿入した。未来を象徴する風景として。

国の重要文化財でもある東京の「日本橋」の上空を首都高が覆う。景観を損ねている、との世論が盛り上がった。巨費を投じ、道路は地下に移設される。事業計画が決まった際、東京都の小池百合子知事は会見で、「歴史や文化を無視し、利便性のみを追求してきたインフラのあしきモデル」「イケてない」と語っている。

東京は景観への配慮を欠く野放図な都市なのだろうか。土地の権利者が便益を最大化するため、様々な構造物を建設する。新宿には近代的な高層ビルが林立する一方、戦後の闇市に由来する雑然とした飲食店の路地「思い出横丁」も残る。統一感はない。でも、訪日旅行者はこの風景を好む。クール、と感じているようだ。

楽家坂本龍一さんは亡くなる前に、明治神宮外苑の再開発について都知事に書簡を送った。樹木を守ってほしい、と。戦時中、当地で出陣学徒壮行会が営まれた。鎮魂の碑がある。過去と未来を見つめ、どんな場所を創出するのか。景観の「観」とは価値観なのだ。東京を代表する、と評価される都市空間を望みたい。