4/25 司法の独立

三島由紀夫の「仮面の告白」には、作家の東大法学部時代の体験を反映したと思われる記述がある。「私はまた六法全書に八つ当たりして、それを部屋の壁に投げつけた」。空襲下で平和を説く国際法の教授の講義を「耳鳴りとしか思えなかった」と批評するのだ。

三島は後に法学自体への興味はなかった、と述懐する。が、刑事訴訟法を担当していた団藤重光さんの講義に興味を持った、と告白している。「汽車が目的地に向かって一路邁進するような、その徹底した論理の進行が特に私を魅惑した」。作家の全集に収められた「法律と文学」という随想の一節だ。

一方、団藤先生も著書で、「三島は僕の考え方をいちばんよく理解した学生の一人でした」と語る。でも、愛犬が、後の大作家の答案用紙をかみちぎってしまった。そんな逸話を披露している。先日、団藤さんが最高裁判事時代に担当した大阪空港騒音公害訴訟の審理の内幕を書き残したノートが見つかり、各紙が報じた。

団藤判事が所属していた第1小法廷は、飛行差し止めを命じた二審判決を是認する方向だったという。元最高裁長官が大法廷での審理を求め、差し止め請求却下に結論が覆った。そんな経緯を明かし「この種の介入は怪しからぬことだ」と記している。高名な学者の本質とは何だろう。教え子、三島の答案を読みたくなる。