4/28 立ち並ぶ空き家

もしも私が家を建てたなら。歌手、小坂明子さんの「あなた」は、そんな1行から始まる。作詞作曲を手がけたのは当時まだ高校生だった小坂さん自身だ。今から50年前の1973年に発売されて大きなヒットとなり、翌年のNHK紅白歌合戦でも歌声を披露した。

「私なら"好き"とか"愛してる"という言葉を使わずにラブソングを作るのに」。そうした「ちょっと反抗的な気持ち」で書いたと後にコメントしている。代わりに用いた道具が家だ。大きな窓に小さなドア。真っ赤なバラに、黄色のパンジー、青いじゅうたん。歌の中の家は核家族が「楽しく笑って暮らす」ような夢の舞台だった。

国立社会保障・人口問題研究所が、日本の人口は2056年には1億人を割るとの推計を公表した。少子高齢化や人口減で家余りが進み、総務省によれば全国の空き家はすでに800万戸を超えた。15年後の38年には空き家の数は2254万戸、空き家率は31%を超えるかもしれないとの民間の予測もある。状況は厳しい。

「あなた」が街に流れた1973年の日本は戦後2度目のベビーブームまっただ中。年間で200万人以上の赤ちゃんが生まれていた。いわゆる団塊ジュニア世代と呼ばれる人口の山だが、3度目の出産ラッシュは起きなかった。就職の困難。支援策の不備。反省すべき点は何か、空き家が並ぶ郊外の風景が問いかける。