5/11 ベトナムと昔の日本

「現代は『時』が距離ではかられる時代である」と歌人・劇作家の寺山修司は言った。私たちは地球上を移動してその気になれば、前近代にも原始時代にも行き着くことができる、と。特有のレトリックに、なるほど、とうなずいたのは連休中を過ごした旅先であった。

ホーチミンから飛行機で1時間半ほど移動したベトナムの地方都市。空港に降り立って気づいたのは若者が多いこと、レジャーや商用に出かける地元の人々が目立つこと。6車線からなる大通りには高層ビルが林立し、名物のバイクと並んでピカピカの外国製セダンが行きかう。赤い国旗に負けない外資の看板も目を引く。

あくまで通りすがりの旅人の印象である。だが、活気ある風景に懐かしさを覚えた。1980年代の日本とどこか似ている。国が成長し、いまより明日が豊かになると信じられた時代の空気だ。ベトナムの平均年齢は33歳。いま日本は48歳。34歳だったのが80年というから直感も全くの的外れではないかもしれない。

胸にわいたのは郷愁だけではなかった。うらやましさと少しの寂しさ。過去三十数年を日本人も懸命に生きたのだから「失われた」とは言わない。ただ、国として足踏みしている間に追いつき追い抜いていった人々の存在を肌で感じた。コロナの壁に阻まれた時は過ぎた。世界に直に触れてこそ分かることがある。