6/11 偽画像合戦

「民主主義は効率が悪い」。そう主張し、独裁と核武装を掲げ誕生した政治結社がまず日本国内で支持を得て、やがて世界を混乱に陥れる。村上龍さんが1980年代半ばに発表した小説「愛と幻想のファシズム」のあらすじだ。舞台は数年後の近未来に設定していた。

情報技術を武器とする展開に新味があった。企業のコンピューターに侵入し中身を書き換えたり、架空の映像を自在に創作したり。政治家や経営者の談話をでっち上げケーブルテレビや通信衛星で世界に流す。今ならインターネットを使うところか。「これは偽画像だ」と簡単に証明しにくい点が攻める側には強みになる。

当時は遠い話として読んだ場面が現実になりつつある。米大統領選で共和党の候補者指名争いに出馬を表明したデサンティス氏が、ライバルのトランプ氏を攻撃するためネットに偽画像を投稿していたと本紙が報じている。保守層に評判の悪い人物と親密にしている写真で、生成には人工知能(AI)を使ったとみられる。

一方トランプ氏も、交流サイトにデサンティス氏の印象をおとしめる合成画像を投稿していたそうだ。何とも情けない戦い方というしかない。こうした戦法が生まれるのは、写真などの印象で投票を変える人が大勢いるはずだと候補者が考えるからか。そんなやり方で有権者をあざむけると思うなら、あまりにも浅はかだ。