2023-01-01から1年間の記事一覧

6/4 この国を沈没させぬために

「子どもは2人まで」。1974年7月4日、東京で開かれていた日本人口会議は中国の産児制限を思わせるような大会宣言を採択した。増え続ける人口を支えるための住宅や工場、公共施設、農地などを「このせまい国土のどこにどう割り込ませたらよいのか」。 民間の…

6/3 沖縄戦と豪雨

南方から台湾を目指すように進んできた台風2号。進路をぐいっと右に曲げて沖縄を直撃し、けがや停電などの被害を与えた。その後は台風接近の影響で本州や四国など列島各地が大雨に見舞われている。何かが南の島からこの国に近づく時、まず上陸するのが沖縄だ…

6/2 霧島の名

与謝野晶子は1929年夏、夫と鹿児島・霧島を旅した。晶子には初めての土地だ。「華やかに鳴る山川を数しらず脈とするなり若き霧嶋」。霧島連山の絶景に感激したのだろう、躍動感ある歌をいくつも詠んでいる。同じ年のうちにこの旅を主題にした歌集も出した。 …

6/1 自然の脅威と人為災害

きょうは気象記念日だそうだ。1875年(明治8年)6月1日、気象庁の前身にあたる東京気象台が業務を開始したことに由来する。英国で調達した機器類を備え、当初はお雇い外国人技師が1人で観測した、と気象庁のサイトにある。 日本初の天気予報は9年後の同じ日…

2023年5月

5/1 メーデーに祝うべきは カレル・チャペック「園芸家12ヶ月」 5/2 LGBTをめぐるドタバタ 5/3 爆買いの先入観 週刊トラベルジャーナル 5/4 教員の大型連休 夏目漱石「我が輩は猫である」 #教師のバトン 5/5 コロナの厄払い 5/6 武器をもたない人たちの記憶 …

5/31 同性愛は犯罪か!?

母親が、食卓で息子に語りかけた。「これだけは覚えておいてほしいの。お母さん、史郎さんがゲイでも犯罪者でも、史郎さんのすべてを受け入れる覚悟はできているつもりよ」。2019年にテレビ東京などで放送された人気ドラマ「きのう何食べた?」の一場面だ。 …

5/30 公共トイレという空間

世界三大映画祭の一つ、カンヌ国際映画祭で役所広司さんが男優賞を受賞した。受賞作「パーフェクト・デイズ」のヴィム・ヴェンダース監督は小津安二郎監督のファンで知られ、小津映画の往年の名優の名をあげて「わたしの笠智衆」と役所さんを紹介したという…

5/29 互いの信頼関係

よく行くスーパーに、あさりの姿を見かけなくなってから1年以上がたつ。最初はこんな長引くとは想像しなかった。熊本で発覚した産地偽装をきっかけに、なぜか他の国産あさりまでことごとく店頭から消えた。たまに見かけても粒が小さく高いので手が伸びない。…

5/28 裁判官の内輪の公正

東京帝大の民法の大家、末弘厳太郎教授は官吏を巡る随筆を多く残している。昭和初期の「役人学三則」では、役人たるもの(1)広く浅い理解(2)法規を盾にした形式的理屈(3)縄張り根性ーーがいると説いた。要は皮肉なのだが、1世紀近くを経てもなお洞察は…

5/27 権力者の館

「かがやかしき大夜宴開く」「朝夜の貴顕淑女三千名参列」。本誌の前身、中外商業新報はそのときの光景をこんなふうに伝えている。1928年12月12日、昭和天皇の即位を祝い、首相官邸で開かれた「大奉祝夜会」の模様だ。話題沸騰のイベントだったらしい。 パー…

5/26 こだわりの一杯

「G7広島サミットにおける食のおもてなし」という資料を外務省がインターネットで公開している。よりすぐりの材料を生かしたコース料理にワイン、日本酒、菓子。大手企業のボトル入り飲料はいつ誰が飲んだのか。旅の印象は飲食も大きく左右する。責任は重い…

5/25 持続可能な株高

「これから株式相場が上がるらしいんだ」。ちょうど20年前の今ごろ、ある金融機関のトップにそう言われた。根拠をたずねると、「占師に聞いた」という。「え?」。クエスチョンマークが頭に浮かんだが、嬉しそうな表情を前に突っ込む気になれなかった。 長引…

5/24 外国人との共生

先ごろ甲府市の山梨県立美術館がユニークなイベントを開いた。県に所属する国際交流員とコレクション展をめぐる日本語のギャラリーツアーだ。興味を引かれて、「言葉の響きが好き」で日本語を学んだというブラジル出身のヂエゴ・ラモスさんの回に参加してみ…

5/23 被爆からの再生

東武東上線・森林公園駅(埼玉県滑川町)の駅舎には、南から飛来したツバメの巣が数多くある。子育ての真っ最中だ。周囲には緑豊かな丘陵が広がる。エサが豊富なのだろう。なんとも平和な駅からタクシーで10分ほど。国内外の人々が集う小さなギャラリーがあ…

5/22 ヒロシマでの追悼

「爆心地の対岸が公園でよかった。被害が少なくて済んだろうから」。原爆ドームの隣で生まれ育った映像作家の田辺雅章さんは以前、米国でかけられた言葉に耳を疑った。とんでもない誤解である。商店や劇場に人びとが集う賑やかな街並みだったのだ。あの朝ま…

5/21 AIに真似できない感動

8年ほど前、都内の著名なシナリオ教室に通ったことがある。いつか心温まるテレビドラマを描いてみたい。そんな憧れからだった。半年間かけてドラマの骨組みとなるプロットの立て方を学んだ。舞台設定や、登場人物のキャラクターと相関図、物語の流れを決める…

5/20 西鉄の怪童のDNA

いまでは不可能だが、戦後のいっとき、春の選抜高校野球に新1年生が出場したことがある。学制改革による特例だった。高松一高の3番打者もその一人。併設された中学の3年生ながら秋の大会で活躍し、甲子園の土を踏む。後に「怪童」と呼ばれる中西太さんである…

5/19 核兵器廃絶の決意

「外国人に人気の日本の観光スポット」というランキングを旅の口コミサイト、トリップアドバイザーが発表している。外国語による投稿数や内容をもとに毎年作成する。新型コロナウイルス禍の直前、2019年の集計結果を「20年版」として今もネットで公開中だ。 …

5/18 ヒグマとの共生

北海道のヒグマの脅威を、吉村昭のドキュメンタリー「羆嵐(くまあらし)」は緊迫の筆致で描いている。1915年12月、苫前郡の開拓村に現れ、胎児を含む7人の命を奪った巨大グマに老練な猟師が立ち向かう物語だ。ヒグマは農民による銃撃をかわし、集落を恐怖に…

5/17 五穀豊穣の未来

「その悲惨さたるや、牛や馬以下の生活とはこういうのを言うのであろうか」。元農林次官の小倉武一は戦前に東北の農村で見た光景について後年こうふり返った。米価が大暴落し、冷害が追い打ちをかけていた。ある村役場には娘の身売り相談所までできたという…

5/16 優越的地位の乱用

テレビでよく見る歌手や俳優が、ある日を境に画面から姿を消す。「干された」のだ。芸能事務所が、独立したタレントを出演させないようメディアに働きかける業界用語だ。辞めた者を使うのなら、うちのタレントはもう出しませんよ。長くそんな慣行があったと…

5/14 命賭けの出産

生涯で10人を超える子を産み、育てた与謝野晶子がお産のつらさを書き残している。6度目は双子だった。「産褥の記」によると、「飛行機のような形をした物」がおなかから胸へ上る気がし、窒息するほどに苦しんだ。7、8日間はまったく一睡もしなかった、とある…

5/13 他者と関わる距離について

村上龍と村上春樹。2人の作家の対談本「ウォーク・ドント・ラン」にこんな問答がある。あれの続きを長編で書いてほしい、と龍さん。話を少し作り変えてまとめたい気はある、と春樹さん。「あれ」とは直前に発表された春樹さんの中編小説を指す。 壁に囲まれ…

5/12 地震の備え

揺れが始まったとき、物理学者の寺田寅彦は上野の喫茶店で知人と語り合っていた。1923年9月1日の正午すこし前である。「椅子に腰掛けている両足の蹠を下から木槌で急速に乱打するように」地震は襲いかかったと、「震災日記より」に書きとめている。 観察眼は…

5/11 ベトナムと昔の日本

「現代は『時』が距離ではかられる時代である」と歌人・劇作家の寺山修司は言った。私たちは地球上を移動してその気になれば、前近代にも原始時代にも行き着くことができる、と。特有のレトリックに、なるほど、とうなずいたのは連休中を過ごした旅先であっ…

5/10 ナチス・ドイツの焚書

「1933年5月10日の出来事はどれ?」。在日ドイツ大使館はかつて、交流サイトで歴史に関する択一問題を発信した。正解は、ナチス・ドイツによる大規模な焚書である。この日、ベルリンの広場で、「非ドイツ的」な書物2万冊以上を燃やした、と解説している。 立…

5/9 朝鮮通信使と日韓関係

鯛(たい)の姿焼きにアワビ醤油(しょうゆ)煮、キジの焼き物も。江戸時代、12回にわたり来日した朝鮮通信使を道中でもてなしたごちそうの一例だ。対馬から瀬戸内をへて江戸に向かうこの外交使節団を、人々は各地で歓待した。異文化に触れたいと、宿場で面…

5/8 新型コロナの教訓

政治家から庶民に至るまで、終戦時の日記集を監修した永六輔さんはその筆の多くが冷静であることに驚き、こうつづった。「戦争だろうが平和だろうが、毎日の暮らしそのものは二十四時間の繰り返しで本質的に変わらないのだろうか」(「八月十五日の日記」) …

5/7 見守られる能登半島

ウェブサイトで、その空き家バンクをのぞいてみたら、土地柄のにじむ家の数々があらわれた。黒瓦と下見板張りの漁師町の家、田園地帯にある茅葺古民家。石川県珠洲市は移住者を増やすさまざまな施策を打ち出していて、20〜30代の若者の関心も高いという。 人…

5/6 武器をもたない人たちの記憶

休日で人が行き交う靖国通りから横道に入り、「しょうけい館」(東京・千代田)を訪ねた。太平洋戦争で負傷した人の資料などを展示するこの施設に来ると、戦いが何をもたらすのか知って慄然とする。いまは企画展「戦傷病者を支えた女性たち」を開催している…