2021-01-01から1年間の記事一覧

11/30

大正の終わりごろ、秋田県から上京して当時の日本大学専門部に入学した青年がいた。柔道部で名を上げ、そのまま大学職員となって頭角を現し、戦後のこの大学に君臨した古田重二良会頭である。日本一のマンモス私学を築いた剛腕には誰も抵抗できなかったとい…

11/29

「ジリ貧を避けようとして、ドカ貧にならないよう、十分ご注意願いたい」。80年前の今日、宮中での会議で、こんな言葉が飛び出した。当時の首相の東條英機が、日米開戦をめぐり首相経験者ら8人から意見を聞いた場である。発言の主は海軍出身の米内光政だ。 …

11/28

外資系企業で働く広報担当者などが困ることの一つに、謝罪会見へのトップの理解不足がある。経営者自身の過ちではなく法的責任も明確ではない。それでも会見した方がいいと本国や日本法人の社長らに説き、不要論を唱える弁護士らも説得しなければならないか…

11/27

最近、「旅ガチャ」なる言葉を耳にした。航空券の購入に使える6千円分のポイントが入ったカプセル自動販売機のことだ。1回5千円。開封するまで旅先は分からない。格安航空会社(LCC)が仕掛けたユニークな企画商品だ。若者を中心に人気だという。 国内で新型…

11/26

「奇々怪々」とはこのことだろう。中国の著名テニス選手、彭帥さんをめぐる騒ぎである。今月初め、彭さんは短文投稿サイトで共産党元幹部との不倫関係を告白した。即座に文章は削除され、消息は途絶え、やがて動向が伝えられたものの不自然さがいっぱいであ…

11/25

江戸時代、飢饉に備えて米を蓄える「社倉」という制度があった。いざというときに藩が備蓄する米を低利で貸し出し、庶民を救済する。困窮者には無償で支給した。中国の先例を参考にこの仕組みを考えたのは会津藩主、保科正之。経済に明るく、名君として名を…

11/24

西高東低、冬型の気圧配置である。全国的に冷え込む朝を迎えた。冬本番も間近で、街を歩けばビルのロビーにクリスマスツリーの装飾もお目見えしている。ごちそうを囲み、プレゼントに心ときめかすイブまであとひと月だが、先日、本紙にこんな記事が載ってい…

11/23

クリスマス商戦が近づくと米アマゾンの倉庫は大忙しだ。今年のアカデミー賞受賞作「ノマドランド」にも、職を求めてあのロゴを目指す車上暮らしの労働者が登場した。多くが貧しい高齢者だが、西部の厳しくも雄大な自然の中、凛と生きる彼らの姿は気高く見え…

11/22

都会の生活はすべて闘争なり。「田園都市と日本人」という本の一節だ。著者は内務省地方局有志。明治の末に出版され、1980年代に講談社から復刊された。西洋の都市の裏面、海外で提唱され始めていた田園都市論、日本での可能性などを広く取り上げている。 復…

11/21

1970年代の国鉄のキャンペーン「ディスカバー・ジャパン」は、初めのころ、社内からも冷ややかに受け止められていた。「なんで日本の鉄道が横文字を使うんだ。けしからん」。こんな声も上がったと、仕掛け人の電通プロデューサー、藤岡和賀夫の回想にある。 …

11/20

モーモタロサン、モーモタロサン。外国人の捕手が傍らで突然そんな風に歌い始めたら、バッターは何が起きたのかと戸惑うだろう。そんなユニークな場面が、戦前の日本の球界であった。「ささやき戦術」の主は、米国からやってきたバッキー・ハリス選手だ。 プ…

11/19

通勤の折、JR東日本の駅でポスターのペンギンが教えてくれた。「サービス開始20周年を迎えます」。交通系のlCカード、Suicaのことである。2001年11月18日、東京近郊の400超の駅で利用できるようになった。以来、各地で同種のカードの発行が続く。 首都圏の私…

11/18

大江健三郎さんの著書「ヒロシマ・ノート」にこんな一節がある。「一年前、飛行場に僕をおくってくれた運転手とおなじく、いま僕を市街の中に運んでいく運転手もまた、昨夜の広島カープの試合の噂に夢中だ」。1964年、広島空港で拾ったタクシーの描写だ。 被…

11/17

赤い表紙の小さな冊子を掲げ、熱狂する労働者、農民、兵士。かつて中国に吹き荒れた文化大革命を象徴するシーンである。民衆が手にしていた「毛沢東語録」は文革中に65億部が刷られたという。強烈なプロパガンダに人々は酔い、やがて社会は深い傷を負った。 …

11/16

ガブリエル・ガルシア=マルケスの小説「百年の孤独」には土を食べる少女が登場する。好物は中庭の湿った土や壁の石灰。悲しいときはカタツムリの殻ごと土を口に入れかみくだく。主人公一家は彼女の癖を直そうと、庭に牛の胆汁をまき、壁にトウガラシを塗るの…

11/14

障害のある子を連れた30代の母が、駅のポスターを見て衝動的に蔵王を訪れる。宮本輝氏の小説「錦繍」の冒頭だ。紅一色ではなく緑、茶、黄に時おり混じる赤がかえって炎のように引き立つ。来し方への思索を風景と重ねる描写が、読む人の心を引きつける。 カエ…

11/13

去年のちょうど今ごろ、本紙に小さな記事が載った。東京都渋谷区の路上で64歳の女性が頭部を殴られ亡くなっているのが見つかった。首都圏のスーパーで試食販売員として働いていたのだが、仕事と住む場所を失い、路線バスの停留所のベンチで夜露をしのいでい…

11/12

99歳で亡くなった瀬戸内寂聴さんは2007年から5年間、本紙に毎週「奇縁まんだら」を連載していた。物故した著名人らとの交流を、豊富なエピソードで振り返っている。とりわけ同じ文学の道を歩む人たちとの出会いや別れ、憧れや畏怖を描く筆致がさえていた。 …

11/11

「空から金が降ってきた」。1999年1月の本紙大阪夕刊に、こんな記事の見出しが出ている。島根県浜田市で、全国に先駆けて「地域振興券」の配布が始まったとのニュースだ。そう、あの商品券である。22年前、日本中にフィーバーを巻き起こした金券である。 15…

11/10

最強の生物として近ごろ話題に上るのがクマムシである。体長1ミリ以下の微生物ながら100度の高温でも極低温でも生存し、人間なら即死する放射線量や水深1万メートル級の高圧でも平気。あまりの強靭ぶりに、隕石に乗ってやってきた地球外生命の説があるくらい…

11/9

「日本に行きたくて仕方がない」。20代半ば、米コロンビア大で学ぶドナルド・キーンさんは渇望した。だが戦後間もない時期。日本入国は実業家と宣教師に限られる。優秀な教授がいるハーバードに移ろうか。指導を受ける日本文化研究者の角田柳作さんに相談し…

11/8

民家の屋根から隣の塀へ飛び移り、逃げ回るサル。網を持った警察官と、スマホ片手のヤジ馬。ときおりテレビで流れるニュース映像を、米国の知人が興味深そうに見入っていた。欧米には野生のサルがすんでおらず、とても不思議な光景に映るのだという。 それで…

11/7

きょう二十四節気(せっき)のひとつ「立冬」を迎えた。朝の冷え込みや日暮れの早さに、季節の移りゆきを感じる。「冬支度」という言葉がある。本来、晩秋10月の季語のようだが、現代では今時分から、防寒具を出したり、暖房器具を整えたりする方も多いので…

10/13

財務次官のバラマキ批判寄稿 「賢明な支出」論争の糧に 矢野康治財務次官が「文芸春秋11月号」に寄稿した「このままでは国家財政は破綻する」が永田町で騒ぎになっている。その大意は「与野党ともに財政バラマキに興じているが、日本人の多くはそれを歓迎す…

9/17

科学者にとって大がかりなシンポジウムに出席する意味は何か。立命館アジア太平洋大学の出口治明学長が知人から聞いた話を本で紹介している。有名な研究者の発表より、休憩中に旧交を温めたり、隣の人と情報交換したりすることでの刺激の方が大きいそうだ。 …

9/16

俳優の小沢昭一さんは典型的な「軍国少年」だった。金の指輪をお国に供出するよう母親をさとし、出征兵士の見送りも欠かさない。あこがれの海軍兵学校の予科に合格、天にものぼらんばかりに喜んだ。ところが初日からなんともいえない陰鬱な気分になったとい…

9/15

独裁者の最期は、こうなるのか。約30年、旧ソ連の指導者だったスターリンの新しい伝記の描写に、不謹慎ながら一幕の喜劇のようだと感じた。1953年3月1日。側近との宴会が終わり早朝に居住区へ戻るが、夕方になっても動きがない。護衛官は不安を募らせた。 し…

9/14

ダーウィンは22歳のとき、探検船ビーグル号で世界一周の旅に出た。太平洋上のガラパゴス諸島を訪れた経験がヒントになり、のちに「進化論」を唱える。イグアナ、ゾウガメなどが孤立した島で独自の進化をとげ、豊かでユニークな生態系を作っていた。 昨今、「…

9/12

昭和50年代の政界に「2年後に政権を移譲する」と記された密約文書があったという。当時、首相就任は確実とみられた福田赳夫氏から大平正芳氏への交代を約束していて、両氏の署名や花押もある。この「大福密約」、事実なら首相の座を私物化する由々しき問題だ…

9/11

20年前のきょう、リービ英雄さんは日本からニューヨークに向かう機上の人だった。作家は愛煙家だ。東海岸までの半日の禁煙はつらい。カナダの西海岸で乗り換え一服する旅にした。機内でアナウンスが流れた。「アメリカ合衆国は甚大なテロの被害者となった。…