2023-01-01から1年間の記事一覧
雑誌のエッセーの執筆を引き受けたものの、アイデアが浮かばない。困った。なんとかこの義務を果たさねば。太宰治はそんな苦渋をそのまま随筆にしてみせた。いわく「義務は、私に努力を命ずる。休止の無い、もつと、もつとの努力を命ずる」。 「義務」と題し…
その論文は祖国の弾圧を逃れた一人の亡命ミャンマー人の依頼から生まれた。応じたのは、朝鮮戦争時に兵役を拒み投獄された経験のある米国人政治学者。タイの雑誌に掲載され、1994年に小冊子となり軍政に抵抗する国内外のミャンマー人の間で密かに回覧された…
4/3 新入社員の旅立ち 映画「生きるliving」 4/4 坂本龍一さん 映画「ラストエンペラー」 映画「戦場のメリークリスマス」 坂本龍一「音楽を自由にする」 4/5 新社会人と庭仕事 鏑木清方「庭樹」 4/6 強権国家との闘い ジーン・シャープ「独裁体制と民主主義…
週末の郊外のホームセンターは、花の苗木を品定めする人で大にぎわいだった。明るい黄色のパンジーやピンクの八重咲きのベゴニア。あでやかな花に目移りしつつも、結局、スミレの鉢を買い求めた。まだ花はない。うつむき加減の固いつぼみがいくつもついてい…
日本人で初めてアカデミー賞作曲賞に輝いた音楽は極限の集中のなかで誕生した。映画「ラストエンペラー」のため、坂本龍一さんが制作にかけた時間はわずか2週間。ほぼ不眠不休だった。「地獄のような強行軍で仕上げました」。本紙の取材でそうふり返っている…
市役所で市民課長を務める男性。陳情対応などの仕事は先延ばしか、たらい回し。しかし病で人生の残り時間が長くないと知り、裏町のささやかな公園整備に粉骨砕身する――。黒沢明監督の作品を英国に舞台を移しリメークした「生きる LIVING」が公開中だ。 都心…
「シーザーの妻たるもの疑惑を招くことをしてはならない」。英国にこんな慣用表現がある。シーザーとは有名な古代ローマの英雄だ。公人たるもの配偶者含め清廉潔白でなければならないという意味だそうだ。中国故事なら「瓜田に履を入れず、李下に冠を正さず…
常磐線をおりると、淡いピンクのトンネルに目を奪われた。福島県富岡町夜の森地区、東北屈指の桜並木だ。花見の子供がはしゃぎ、老夫婦が静かに仰ぎ見る。復興拠点として徐々に立ち入り規制が緩和されてきたこの地区はあす、避難指示が全面的に解かれる。 街…
シリーズ映画のタイトルには型がある。ヒットを受けた2作目で多いのは「続○〇」、3作目は「新○○」だろうか。4作目からはサブタイトルをつけるケースが多いようだ。50作にも及ぶ「男はつらいよ」の初期作品みたいに「望郷篇」「純情篇」などという手もある。 …
先日、読売新聞の歌壇にこんな歌が載った。「『高橋和巳全集』を書架から外す 青春にいざ さらばする友」。東京の読者の作品である。作者や友人はどんな日々を過ごし、今に至ったのだろう。秀歌に触発され、高橋和巳全集の古本をネットで注文してしまった。 …
朝食後に薬を飲んだ方、おられますか。花粉症の予防だろうか、それとも高血圧の治療か。いずれにしろ錠剤の包装シートに注意を払った向きはそういまい。プラスチックやアルミニウムからなるシートを回収してリサイクルし、脱炭素につなげる動きがあるらしい…
少し上目づかいにこちらをじっと見つめる。どこか頼りない、切ないまなざしに心臓をわしづかみにされた。東京の多摩動物公園で暮らすタスマニアデビルだ。寿命といわれる6歳になり足元もおぼつかないが、現役で来園者を迎える。先日、日経新聞夕刊で読んだ。…
戦争中も日本の列車は動き続けていた。たとえば、1945年8月15日。前日に上野をたった青森行き103列車は定刻より247分も遅れて5時35分に盛岡にたどりつく。ここでいったん運休になるも、各駅停車の113列車として北へ。涙ぐましい奮闘である。 先ごろ、さいた…
「塁球」に「底球」さらには「打球鬼ごっこ」。明治初期に伝わったこのスポーツを、どう訳すのかなかなか定まらなかった。ようやく「野球」という訳語ができたのは明治27年(1894年)。旧制第一高校のベースボール部が部史をまとめていたときのことという。 …
突き放され、追いつきかけるものの手が届かず、同点になるがまた離され。きのう放映された一つの試合が何人の人をやきもきさせ、最後に歓喜を与えただろう。米マイアミでのワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の準決勝、日本対メキシコ戦の話だ。 6対…
近所のスーパーの鶏卵売り場に、見たことのないパックが並んでいた。北海道や富山など産地が異なるブランド卵の6個入り。酒かすを食べたり、イチジク畑で放し飼いで育ったりした鶏たちが産んだ。卵かけご飯を研究し、鶏卵の生産者を支援する団体の発案という…
「この法律は基本的人権に重大な関係があるから、適用は最小限にすべきだ」。あえて取り扱いを自戒する条文を冒頭に置く法律がある。「団体規制法」だ。オウム真理教を念頭に、資産や信者の住所氏名を定期的に報告させる。施行は1999年、罰則も付く。 信教の…
Ifが禁物といわれる史実を描いて「もしも・・・」と考えさせるドラマこそ、すぐれた歴史物語だと思う。過去から現在へ、無数に枝分かれする道筋の、どこでどう選択を間違えたのか教えてくれるからだ。公開中の映画「Winny」はまさしく、そんな作品だった。 …
臨済宗の名僧・白隠禅師は、「南無地獄大菩薩」と大書した。地獄に向き合うことにより、人びとに菩提心=他者の幸せを願って行動する気持ちが芽生える。そんな意味だと聞いた。東日本大震災の直後、福島県三春町の僧侶で作家の玄侑宗久さんに教えていただい…
放映が始まるとすぐ、爆発的な反響が寄せられたという。ちょうど20年前の春、NHKの衛星放送に登場した韓国ドラマ「冬のソナタ」である。純愛ものの王道をいきながら筋立ては起伏に富み、運命の2人に涙したファンが無数にいたはずだ。ブームは翌年も続いた。 …
平安時代、都の治安を担う検非違使に任命された役人が数か月たってもいっこうに出仕してこない。摂政の藤原道長が使いを出して問責したところ、欠勤の理由は「日の吉凶がよろしくなかったので・・・」だったそうだ。「平安京の下級官人」(倉本一宏著)にあ…
四国の谷間の村と森。訃報が伝わった大江健三郎さんは、生まれ育った愛媛県内子町大瀬地区を多くの作品の舞台とし、感性のよりどころともした。1992年に出版した講演集「人生の習慣(ハビット)」には、文学生活の中で幸運だったこととして、こんなふうな一…
袴田巌さんの再審を認める判決を東京高裁が出した。静岡地裁が9年前に再審開始を決めたのに高裁がひっくり返し、最高裁から差し戻しを受けてたどり着いた結論である。検察はいったいいつまで袴田さんを死刑囚の身分に置くのだろう。潔く再審を認め、袴田さん…
時々お昼を食べる店で、長らくテーブルに置いてあったアクリル板が撤去されていた。よく見ると入り口の検温装置もなくなっている。「コロナ後」の新様式がじわりと浸透しているようだ。仕切りがないと食事中に不安になるかとも思ったが、存外気にならなかっ…
ツナ缶といえばマグロなどを原料とする缶詰めを指す。宮城県気仙沼市唐桑町の鮪立という地区に「唐桑御殿つなかん」という民宿がある。鮪という字はマグロとも読む。経営しているのは菅野一代さん。鮪と菅で、つなかん。ここを訪れた若者たちによる命名だと…
東京大空襲の悲劇から78年。一夜にして10万人の命が奪われた。米軍は当初、新開発の照準器で軍需工場を狙い撃ちにすることを考えていたがうまくいかず、無差別爆撃にかじを切ったそうだ。いまウクライナでも8000人の死者が出ている。科学技術の進歩により人…
日本もかつては「総中流社会」といわれ、平等な社会だと考えられてきました。しかし2000年代以降、格差社会が到来したといわれます。そして現在、「新しい資本主義」を掲げる岸田文雄政権は賃上げや人への投資への支援を通じて、成長と分配の好循環を実現し…
大型ロケット「H3」初号機の打ち上げは失敗した。だが宇宙開発は幾多の失敗を乗り越えて星の世界を私たちに近づけてきた。松本零士さんは「銀河鉄道999」の文庫版に寄せた文章に「努力しないものに報いはあり得ない」と記した。希望の火を消してはなるまい。…
「元徴用工」問題が解決に向けて動き出した。韓国側の財団が日本企業の賠償金相当額を肩代わりして原告に支払う。きのう、韓国が示した解決策だ。解決に向けて道筋を探りたい。「あきらめたらそこで試合終了ですよ」。韓国でも人気のスラムダンクに登場する…
あさって3月8日は国際女性デー。1977年に国連が制定したが、ルーツは20世紀初頭にある。当時ロシアは第1次世界大戦に参戦したが敗戦が続き、女性の工場労働者らがストライキを始めたのがきっかけとされる。生みの親のロシアで国際平和への決意は聞けそうにな…