2022-01-01から1ヶ月間の記事一覧

1/31 感染者数のうなぎ上り

「うなぎのぼり」の語源を辞書で引くと、諸説あるようだ。いわく「川をまっすぐにのぼる様子」。つかもうとすると上へ上へと逃げるため、ともあった。葛飾北斎の「鰻登り」は後者であろうか。天に向かってもがく巨大なウナギとそれにしがみつく人間の姿を滑…

1/30 外国人を見る目

日本文学研究家のドナルド・キーン氏は今から60年あまり前、日本人が外国人に接するときの態度を、ちょっと辛口に論評した。「日本人は彼らを美化したり軽蔑したりする傾向があるが、それはふつう相手の国籍次第である」(「生きている日本」足立康訳) 10年…

1/29 テクノロジーの暴走

真夜中に突然、自宅を出るよう命じられバスで隔離施設に移された。急なロックダウンで初対面の人の家に閉じ込められた。食料を買うための外出も許されない。北京冬季五輪を目前にこの1ヶ月、これぞ強権国家という中国の姿がメディアを通じあらわになっている…

1/28 夏の時代

自分の人生にとって、夏の時代は終わった。そう実感する日が誰にでも訪れると、ヘルマン・ヘッセが「夏の終わり」というエッセーに記す。40代か60代か。時期こそ人それぞれだが、周りを冷気が取り囲み、木々の緑が黄色く変わっていることを突然知り、うろた…

1/27 試験の魔物

中国の官吏登用試験「科挙」は、6世紀末に始まり、一時の中断をはさんで、20世紀初頭まで1300年も続いた。食料や布団などを持ち込み、泊まりがけで論語などの古典計62万字の知識を問う壮絶な一戦である。最終段階で、皇帝が臨席した時代もあったようだ。 合…

1/26 電車は社会病理の空間か

新聞の電子版の利点は、各紙の地域版も読み比べることができる点だ。きのうの朝刊で複数紙が、こんな事件を伝えた。「電車で喫煙注意され 高校生に傷害」。車内で加熱式たばこを吸っていた男が、やめるよう促した17歳の男子に殴る蹴るの暴行を加えた。 高校…

1/25 こども「家庭」庁

「家庭」という言葉は江戸時代から使われていたらしい。飛田良文さんの「明治生まれの日本語」によれば、天明年間(18世紀末)には「家庭指南」なる書があったという。もっとも、現在とはニュアンスが違い「厳父が子女に示す教訓の意味を濃厚に含んでいる」…

1/24 ドライブ・マイ・カー

カンヌ映画祭に続き米国で数々の批評家賞を受賞、3月に決まるアカデミー賞でも有力候補という。濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」を遅ればせながら映画館で見た。劇中劇のかたちで主人公の心情を代弁する「ワーニャ叔父さん」の台詞が心にしみた。 「…

1/23 政治と暮らしと科学

地球に向かって重たい星が近づいてくる。人類の危機を描く60年前のSF邦画大作が「妖星ゴラス」だ。日本が提唱し全世界が協力、南極にロケット式の推進措置を多数つくり、地球を動かして衝突を避けようと試みる。実現可能か、専門家に考証を依頼したそうだ。 …

1/22 双葉に暮していた人々

福島県の人びとが、「おかえり常磐線」の横断幕を掲げて喜んだのは2年前の3月だった。東日本大震災と東京電力福島第1原子力発電所事故の影響で一部不通だったJR常磐線が全線復旧し、富岡駅(福島県富岡町)-浪江駅(同県浪江町)の約20キロが結ばれたのだ。…

1/21 ウィズオミクロン

コロナ禍が始まったころ、東京都は「対策かるた」のポスターを駅などに張り出した。「進めようステイ東京ステイホーム」「ゆっくりと空を眺めてステイホーム」「取り戻そうSTAYHOMEで笑顔の毎日」。ステイホーム、ステイホームの呪文と言っていい。 当時の記…

1/20 風邪の神送り

「昔は医学が頼りなかったんで、病を送ったりする習慣があったんですが…」。上方落語の桂米朝師匠の「風の神送り」である。悪い風邪が流行ると、張りぼての人形を作って神となぞらえ、はやし立てて川へ放る。江戸時代は各町内で行われたのだそうだ。 「よそ…

1/19 追悼水島新司さん

優れたキャラクターが登場する漫画はね、時代を超えるんです」。かなり前のことだが、水島新司さんに話をうかがったことがある。人気漫画が長く読み継がれる理由をお聞きした。おととい届いた訃報で、電話越しの熱っぽく、優しい口調が耳の奥によみがえった…

1/18 図書館は大切なインフラ

「ミヤケンはありますか」「おいしいカニの見分け方が知りたい」。図書館のレファレンスサービスには日々さまざまな質問が持ち込まれる。国公立館などでその一部を公開する「レファレンス共同データベース」で日本の老若男女の疑問の数々を見ることができる…

1/17 チリと阪神の教訓

手記はこう始まる。「昭和35年5月24日。朝6時過ぎ、わたしは異様なざわめきに目覚めた」。場所は青森県八戸市。騒ぎは、浜の方から聞こえてくる。「津波だ!」。跳び起きて、通りへ出ると家財道具を積んだ3輪トラックやリヤカーが次々と高台へ向かっていた。…

1/16 海の酸性化

吉田健一の「私の食物誌」は、読んでいるとお腹のすく本である。この作家特有の文体でさまざまな土地の食べものが称揚されているが、白眉は「広島の牡蠣」だろう。いわく「広島のを食べると何か海が口の中にある感じがする」。いまから半世紀も前の随筆だ。 …

1/15 受験生が紡ぐ大河

「受験生大河のごとく来たりけり」(仙田洋子)。今年もこの日が巡ってきた。大学共通テストの本試験が今日から2日間の日程で行われる。少子化で大河の流れは細っている。とはいえ、50万人規模の若者が挑む。けさの試験会場周辺は、冒頭句の景色だろう。 い…

1/14 どんどに託す願い

漫画家水木しげるさんが、90歳を超え連載した「わたしの日々」で、故郷の鳥取・境港での行事を回想している。「トンドさん」だ。ちょうど今時分、しめ縄や松飾りを各戸から集め、高く積み上げ盛大に燃やす。その火で焼いた餅が水木少年の楽しみだったそうだ…

1/13 ウクライナは死せず

イタリアの港から出た貨物船が、漂流している小舟から男を救助するシーンで物語は幕を開ける。ときは1982年。ソ連の秘密警察を逃れてきたこの男を、ある人物が訪ねてこう語る。「ウクライナは死せず」。独立運動の闘士が出会い、ストーリーが動き出す。 英国…

1/12 岩波ホール閉館

銀座の並木座、飯田橋の佳作座、池袋の文芸坐、少し遠いが板橋区の上板東映。1970年代末の学生時代、授業もそっちのけでそういう名画座に入り浸っていた。日活の無国籍アクションやATGの野心作に感情移入し、暗闇のなかで興奮したものである。 そんな映画青…

1/11 カザフスタンの非常事態

春の花壇を代表する存在といえばまずチューリップが頭に浮かぶ。秋に植えられた球根はいま、冷たい地面の下で冬が過ぎ去るのを待つ。「チューリップ喜びだけを待つている(細見綾子)」。句の通り、心がウキウキするような鮮やかな色彩をめでる日が待ち遠し…

1/10 成人が見た香港

「ヤオハンってどんなところ?」。中国の歌手、艾敬(アイ・ジン)さんが30年前に発表した「私の1997」の一節だ。5年後に迫る香港返還。はやる若い女性の心を日系百貨店の名に託した。早く来て1997年。彼氏と買い物や観劇をしたいの。素朴な歌声は世界で流れ…

1/9 学び直しの喜び

本紙で最もムズカしいとも言われる「経済教室」面に、おっ、という方の名前を見つけた。「タッチ」などのヒット曲で知られる歌手の岩崎良美さんである。自らがいま取り組んでいる「学び直し」と将来の夢を5日付のコラム「私見卓見」に寄稿していただいた。 …

1/8 長引く冬ごもり

しんしんと雪の降る中、こたつにもぐって寒さをやりすごす。北国の長い冬をほうふつさせるのが「冬ごもり」の季語である。おととい東京都心のビル街が珍しく銀世界に変わった。雪国の厳しさとは比較にもならないがこの語の静かなひびきがふと心に浮かんだ。 …

1/7 外国旅行での異文化体験

仰々しく紙の外箱に納められた4冊の本。といえば愛蔵版の長編小説みたいだが、なんと海外旅行のガイドブックである。その名も「外国旅行案内」(日本交通公社刊)。昭和30年代後半、海外がはるかに遠かったころの匂いが、黄ばんだページに染みついている。 …

1/6 生き残るウイルス

山奥へクリ拾いに行った寺の小僧さん。恐ろしい山姥に縄でくくられ、食べられそうになってしまう。そこで、出かける前に和尚からもらった特別なお札を使うことにした。東北などに伝わる昔話「三枚のお札」である。アニメで見てドキドキした方も多いだろう。 …

1/5 インフレーションの胸騒ぎ

休日のデートを楽しもうと、人出で賑わう東京の街に恋人たちがやってくる。ところが懐は寂しい限り。2人合わせて35円しかない。さて1日をどうやって過ごそう。黒澤明監督初期の名作「素晴らしき日曜日」の冒頭である。戦後間もない1947年に公開された。 劇中…

1/4 正月の景色

今から100年前の正月、東京はどんな景色だったのか。大正11年(1922年)の永井荷風の日記によると、かなり厳しい寒波に見舞われていたようだ。「水道凍る」「数年来覚えしことなき寒なり」とある。目覚めると、部屋のなかの盆栽の土も凍っていたという。 気…

1/3 初詣で望むこと

元日の午後、雲一つない青空に促されて近所の神社に足を運んだ。長い列が境内の外にまで続く。「何をお願いする?」と子に尋ねる母。スマホで辺りを撮影する外国人男性。そろってマスクをしていることを除けば、コロナ前とほとんど変わらない正月の風景に見…

1/1 21世紀日本の危機

元日付の新聞に寄稿を求められ、夏目漱石は困惑したらしい。それで随筆に、こんな皮肉をしたためた。「苟くも元日の紙上にあらわれる以上は、いくら元日らしい顔をしたって、元日の作でないに極っている。いきなり楽屋オチだがユーモアが効き、さすが漱石だ…